『おはなし屋』-space-『およろず』

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
 英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅲ 英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅴ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ   3kaku_s_L.png   スポンサー広告
*Edit
   

未分類

英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅳ

 
 英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅲ 英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅴ
←  次のpageへ



暖炉の傍まできたアレグレットは抱かれたままのイヴを見下ろすと、
少々乱暴にかついだ大剣をすべり落とし、唇をとがらせた。

「いーーな~~イブゥ~~」
「……思ってないくせに」

イヴの頭をぎゅっと抱え込んで、拗ねたように暖炉の火を睨むヒュイ。

「思うかよ」

アレグレットは、伏し目がちに笑った。
彼は不意に、イヴを抱き込んでいたヒュイの腕を引く。
彼女は驚き、頤(おとがい)をあげる。
腕の庇(ひさし)が消え、急に射した火の灯りに目を細めて、
イヴはヒュイの肩口に額をよせた。

女の華奢な手首を引き、黙って見つめる男。
引かれた手を預けたまま、男を見上げている女。

お伽噺を切りとったような影絵が、床に映っている。

白い薄衣を羽織った 華奢な腕が伸びる先に、逞しい男の腕。
アレグレットは
彼にしては珍しい、なにかをためらっているような顔で、
ヒュイを見つめている。
不意にアレグレットは、視線に気付いたようにイヴを見やった。
イヴは目を逸らさず、黙って見つめ返す。

先に目を逸らしたのは、アレグレットの方だった。

引いていたヒュイの手からミストルテインを取りあげ、
アレグレットはゴミでも投げるように、石を鎧の中へと放り込んだ。

「あまり、長々と持つな。何人入ってると思ってる」

カラカラ…と、石の跳ね回る音がようやくやんだ頃、
鎧と向き合うアレグレットは、ぶっきらぼうな呟きをよこした。

とかれた腕をゆっくりと床におろし、
ヒュイは再び、暖炉の方へと向き直る。
イヴの視界にもどってきた美しい横顔は、火影のためか頬がほの紅い。
やがてヒュイは、ふと口元をゆるめて、困ったように微笑んだ。

ヒュイの膝から、イヴは立ち上がった。

「お入りになっているのは12人ですとも! 
 我が家 歴代の党首が満載のミストルテインでございます!
 そしてお前は13人目でございます!」

兜を戻されたとたん、渾身のジェスチャーとともに喚きだした鎧に
アレグレットはめんどくさそうに何度か頷いた。

「7代目のジジイがショタコンの変態だったな。混ざったんじゃないだろうな?
 うちの軍師に変な不純物まぜんなよ」
「だれが不純物! この高名なるヴァルシスの英雄に向かって!」
「黙れ」

がんッ!と鎧の股間を蹴っ飛ばし、
アレグレットはようやく、暖炉の前に腰をおろした。
禅をくむようにあぐらをかき、
やけにクソ真面目な顔で考え込んだ後、ぽんと膝をうつ。

「7代目だけ、歴史から消そう」
「あなたの思考回路って、本当に理解できないわ」

一転して、冷め切った目でシーツにくるまり、寝転がるヒュイ。
アレグレットはいまだ真剣を崩さず、無駄に厳(おごそ)かに続ける。

「かれこれ10年、あのジジイどもを維持してきたけどな。
 7代目は俺の脳みそに余る。
 やたら干渉してくるしエロいし変態だし、とにかくやかましい。
 混ざりたくないジジイランク1位だな。
 そろそろ子供のひとりでも産んで、俺は前線から退いてだな。
 脳みそをリフレッシュしたいんだよ」

「そうね。まず生まれ変わって、子宮をもつことから始めましょうね」
「めんどうだ。貸してくれ」
「バカの子は産みたくないの」
 
三人で暖炉をかこむように、イヴはすとんと、二人の横に座り込む。

「さっきから、混ざるって……なんのこと?」

アレグレットはしばらく真っ直ぐに、揺らぐ炎を見つめていた。
うずうずと説明したそうに首を伸ばしている鎧が、
ガショッ。ガショッ! とこれ見よがしに甲冑を鳴らし、イヴにアピールしている。

アレグレットは、鎧を目だけで一喝した。

二の腕についた革のバンドを外し、
内側に仕込まれたケースから、小指の爪ほどのミストルテインを
手のひらにこぼれ落ちるほど振りかける。

「触るなよ。 今は見るだけだ」
「……ひとつくらい」
「これは純度が高い。慣れてない奴が触ると、
 まあ……混ざるんだよ。一発で」

ちょいちょい、とえり好み、少々蒼の薄いひとつぶを指でつまむと、
アレグレットは残りをケースに流し入れた。
不満と怪訝のまざった顔で、しかし身を乗り出して、
イヴはアレグレットの手のひらを覗きこむ。

「ミストルテイン。 『裏側』 に潜れる、唯一の物質だ」

「ウラ……?」

「俺やお前がいるここがオモテだとして、
 そうだな……『時間と切り離された場所』っていう感じか? 何て言ったらいい」

「場所のイメージとしては、海のなか、鏡のなか、闇のなか……そんな感じね。
 
 オモテの人間をウラ側に押し込んで幽閉したり
 ウラ側に潜って、オモテのある場所に顔を出したり。
 人間の人格や記憶を、ウラに閉じ込めて引き出せるようにしたり。
 
 要するに、現実世界の下にある海みたいなものね。
 
 ウラ側にはまったく『時間』や『位置』や『境界線』がないから、
 ウラに落としこんだものが元のオモテへ帰るためには、
 『帰る時間』と、『戻る場所』と、『オモテに戻るまで、形を保つ箱』が必要なの。
 
 それを設定して、落とすモノに鎖をつけられるのが、ミストルテイン。
 でもその鎖を オモテに戻すまで『維持』できなければ、
 オモテには 二度と帰ってこれなくなる。
 
 『維持』するには、脳のなかでずっと
 その情報を『おぼえて』いなければならなくて、
 まあ常に、あたまの片隅に置いておくって感覚かしらね。

 逆にそれを逆手にとって、
 ウラ側におとして『維持』を解除して、相手を殺してしまうとか…
 ヴァルシスでは絶対に禁止されているけど、手軽に一気に殺せるのは確かだし
 まあ、いろいろ出来ることはあるけど、
 …リスクも大きいし、末路もひどいものだから、私は使う気になれないわね」

 
言葉の最後でヒュイは胎児のように体をまるめ、アレグレットに背を向けた。
アレグレットは暖炉を向いたまま、空(くう)に目をおとしている。
どこか沈んだような二人に、イヴは一瞬とまどったように、言い淀む。

しかしやがてアレグレットを見すえ、尋ねた。

「……最期は、どうなるの?」

イヴを横目で見据え返す、アレグレット。

壊れた壁からのぞく夜空は、薄い藍に変わっている。
雪はもうやんでいて、朝の静けさと染みいる冷たさが、肌をさす。
ごそ、ごそりとさざめき出す、人の背の海。

アレグレットは目を後ろへながし、あたりの気配を一瞥すると、
大剣を持って立ち上がった。

「そろそろ支度しろ。
 ああ、…俺も初陣の夜は寝られなかった。 心配すんな」

相手を安心させる、普段どおりの不敵な微笑だった。
背を向け、扉の方へ歩き出すアレグレット。
床に横になったままのヒュイは、そっと目を伏せる。

あの、哀しそうな表情だった。

拳を握りしめるイヴ。
歩いていくアレグレットの二の腕をわし掴み、強引に振り向かせて、
イヴは怒鳴った。

「最期はどうなるんだよ……!
 隠したって、いつか分かることなんだろ?」
「分かるよ。 今日にでもな」

アレグレットは腕を掴まれたまま、イヴを見下ろす。
イヴは思わず顔を引きつらせ、腕から手を離した。
アレグレットは静かな気迫をむきだしたまま、つぶやいた。

「お前は、ミストルテインには手を出すな」

ふたたび歩き出すアレグレット。
扉の前で立ち止まり、彼は挑むように呟いた。


「あれは、───断頭台だ」


彼が押し開けた扉のむこうには、
雲一つない夜明けの空と雪原がひろがっている。
やさしい薄桃と、藍の光。そのなかにひとり立つ背に目をこらすイヴ。

ちいさくイヴは、口を動かした。


「あんたはもう、登っちゃったわけ……?」


扉が重々しく、閉まる。

イヴの足元の床が、たゆたうようにゆらりと歪んだ。
よろめくイヴ。その紫紺の目から、涙の粒がひとつ、こぼれて散った。
掴むものもなく、眼前にせまる床を呆然とながめる。
その首元に、乱れた映像のようなノイズとともに、鉄の首輪がうかんだ。

鎖の鳴る音がする。

イヴはいつの間にか、薄暗い銀色の空間を真っ逆さまに落ちていた。

大量のモニタがそこにあるかのように、
空間という空間を映像がうめつくしている。

アレグレットが人懐っこく笑っている。ヒュイが泣きしゃぐっている。
薄汚い、スラム街の町並み。 ヴァルシスの夕焼け。
血塗れの背中の海のなかに、アレグレットが立っている。
愛用の大剣を  血を吸い尽くしてびちゃびちゃになった地面に突き刺し、
柄に額をあてて項垂れている。

イヴは落ちながら、小さくつぶやいた。
心底、 哀願する声だった。

「アレグレット」

彼は、顔をあげた。
横顔にかかっていた髪が、風梳(す)かれて揺れる。
その狂気めいた顔がこちらを向いたとき


すべての映像は、白に塗りつぶされた。


鎖がひときわ、大きく啼いた。
首をぐっと引かれ、イヴは息をつまらせて目を剥く。
足元に延々と続く白の床に、
長い長い鎖の影と、
その先端にテルテル坊主のように吊るされている、子供の影がうつっている。


ふいにぷちんと、首元の鎖が切れた。


ヒザを思い切り打ち付け、イヴは倒れ込む。
何度か咳き込み、くらむ頭をふって、イヴは上半身を重たげに起こす。

目の前には、もう白の世界は無かった。
堅牢な鉄格子と、その向こうに立つ緑の軍服の青年。
エイル・ウェリテリセ大尉が、ミストルテインを手に
イヴを静かに、見下ろしていた。



next episode メルへン Ⅴ

←Read over again before chapter?




一日遅れだめ。ぜったい。
アレグレット… 
感想・疑問・アドバイス等々、お待ちしてます
 白猫




もくじ   3kaku_s_L.png   未分類
   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
  • 【英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅲ】へ
  • 【英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅴ】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。