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 0と1があるだけいいじゃん 英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅳ
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英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅲ

 
 0と1があるだけいいじゃん 英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅳ
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そのやかましい鎧は、足だけは土台にくくりつけられており、
自由に動くことは出来ないようだった。

鉄の関節を大いに騒がせながら、
鎧は大舞台のプリマドンナでもそこまでしないだろうというほど大仰に
よよよーっと泣き崩れ、……ようと試みている。実際はせいぜい、
鎧と床の角度が垂直から45度くらいになる程度である。

なんとか膝をつこうと前や横にうねり、反り返る鎧は、
見ていて非常に、非常に、気持ちが悪いものだった。

「シャイエに死ぬまで付き添った臣下の家系!
 それが王になってはならぬのでありますよ!」
「まあ、鎧さんたら。大事な初代さまの御劔(みつるぎ)を投げ捨てるなんて」
「素敵でしょう!!」
「そうね、すてき」

ヒュイは全く大したことなさそうに、
穴の開いた壁からすっ飛んでいった剣を追い、のんびりと出て行く。

イヴはただただ、鎧を見つめて固まっている。
鎧も諸手をあげ、膝を前屈しかけたまま、顔だけをイヴに向けている。
鎧は何を思ったか、直立不動に戻って厳かに宣言した。

「私のことをただの鎧と思わない方が良い」
「……中の人が何歳か知らないけど、はやく大人になった方が良いよ、君。
 将来のためにも」

鎧は今度はわてわてと両手をばたつかせ、猫背格好、ネコ撫で声で話し出す。

「何を言いますか、中に人など居ませんとも! ええ居ませんとも!」
「いるに決まってるだろ、じゃなきゃそんな───」
「入ってないのよ。誰も」

御劔をかかえ、雪をつけて帰ってくるヒュイ。
鎧はガションッ!と姿勢を正し、うやうやしく剣を受け取った。

「いや、かたじけない」
「いいえ。いっそ折ってしまえばよかったのに」
「何てことを仰るか! いやまったくその通り」
「どっちだ」

ぼそりとつっこむイヴ。
ヒュイは苦笑して、イヴの額をぺちりと叩いた。

「どっちも本当なのよ」
「……はあ?」
「鎧さん。 仕掛けのタネを、ちょっと貸していただける?」

鎧の胸元を指で撫でながら、妖艶に微笑むヒュイに、
鎧はガショーッ!!と身を正して声を張り上げる。

「ヒュイ殿であればいつでも! 
胸でもッ!! 体でもッ!!!」


「他には何もいらないわ」

さらりと言うと、ヒュイは鎧の頭をがこんと外して手を突っ込んだ。 

イヴはただ、口と目を生気無く開いて、
気持ちの悪い至福の声をもらす、首のない鎧と、
物置箱でもあさるような淡泊な顔で鎧の胴体に手を突っ込んでいる目麗しき女、という
このうえなくシュールな絵を呆然と見つめていた。

鎧の奇声が止まった。

文字通り、ネジが切れたように黙り込んだ鎧から手を引き抜いたヒュイは、
ふわりとイヴの前にかがみ込む。
驚き、我にかえったイヴを、感慨深そうに覗きこむヒュイ。

「明日からあなたも、ヴァルシスの義勇兵か」
「……何?」

落ち着かなげに、顔をそらすイヴ。
ヒュイは肩をふるわせ、楽しそうに笑ってみせる。

「いや。膝をついたら、顔が上にあるんだもの。おおきくなったな、って。
 あんなに小さかった子がもう13歳で、最年少の義勇兵だなんて、
 ……アレグレットも、すこしは昔と変わればいいのにね」

ヒュイは、笑いながら、哀しい顔をする。
イヴはそんなヒュイをかすめ見ては、やるせない顔で目をそむけた。

そのはかなげな微笑は、
派手で妖艶な外見からは想像もつかない、彼女のとある癖だった。

この微笑で、加えて、ひとりごとのように質問をつぶやいたら、
たいてい彼女は相手の答えをある程度、決めつけている。
相手の出す答えは、自分の望む結果ではないと踏んでいる。

「……たとえばの話なんだけれどね。
 5年前、もしアレグレットが、国境であなたを拾わなかったとしたら」

言葉が進むにつれて、ヒュイの美しい顔からは明るさが失せていく。
残ったのは、哀や戸惑いの混ざった微笑だった。

そして彼女は、ひとりごとのように呟いた。

「あの時アレグレットや、私に会わなくても、
 イヴはこの国に来て、義勇兵になったのかしら」

俯いたヒュイを見下ろす、イヴ。

突然、イヴは尻餅をつくほどに、勢いよくしゃがみ込んだ。
驚いたように見つめるヒュイと目を合わせたかと思うと、
イヴはふいと横向いて、呟いた。

「これくらい」
「……え?」

座った自分の胸あたりを手刀でかるく切りながら、
イヴは仏頂面でたどたどしく、話し出した。

「5年前は、いっつもこの高さにヒュイの顔があったんだよ。
 7歳のガキだった僕に合わせて、いつもこれくらいにかがんでた。
 
 アレグレットも、僕がどこに行っても、どこまでも追っかけてきてさ。
 稽古中に僕が崖から落ちたときも、落ちなくて良いのに落ちてきて、
 僕よりも多くあばらとか色々折ってた。
 
 稽古中は血塗れになってても放っておく癖に、
 稽古が終わるとヒュイがすっ飛んできて、じべたに座ってケガの手当てして、
 ……だから、僕は、自分がおおきくなっただとか、身長伸びただとかはあまり、
 感じたこと無い。
 いつも二人が、目線合わせて、屈んでくれてた。から」

戸惑ったように、だがしっかりとイヴを見つめているヒュイ。
イヴはそんなヒュイに気づくと、
困り果てたようにシーツのフードを目深に引っ張った。
すすけた布からのぞくのは口もとだけで、あとはすっぽりと、シーツをかぶっている。

「僕は、……俺は、この国に生まれたわけでもなんでもないけどさ。
 命はずっと、アレグレットとヒュイに貰ってきたよ」

暖かい火の灯りに照らされながら
大きなてるてる坊主は恥ずかしげにそっぽを向いて、そう呟いた。

「だからそのたとえ話は、本当に、ありえない事なんだって」


「……そう」


吐息に音をのせただけの、ヒュイの読めない囁き。
イヴはフードのすそを少し上げ、真っ赤に染まった、すねたような顔を覗かせて───

「うおっ……ッ!?」

身を引き、のけぞった時には、遅かった。
頭を優しく抱き込まれ、体ごと、柔らかいヒュイの腿にひきあげられたイヴは、
哀れなほどに目を白黒させ、硬直した。
優しく、しかしまだ僅かに悲哀をのこして微笑みながら、
ヒュイはイヴの頭をそっと、ぽんぽんと撫でた。

「戦場に、出したくないな」

上からの穏やかな声に、イヴは困ったように笑った。
肩のこわばりをといて、
こどもらしい、いたずら好きな少年の顔でヒュイを見上げる。

「ヒュイらしくないね」
「そうね。 いまちょっと感激しているから、混ざってしまったのかも。
 自分から、誰かを抱きしめるなんて」

無邪気に笑ってヒュイは、綺麗な拳をイヴの目の前に差し出す。
白い指のすきまから、蒼い燐光が水のように滴っている。

イヴは今一度、ヒュイを見上げた。

彼女はいまや、
知将と呼ばれるに相応しい、凜とした面持ちでイヴを見下ろしていた。
花開くように、ふわりととかれる拳の力。
中には、まばゆく光る蒼の石がひとつ、乗っている。

「ミストルテイン。 ヴァルシスでは、そう呼ばれているの」
「……ミストル……武器なの? これ」
「おそらく最強のね。使いこなせれば、世界で一番強くなれるでしょう。
 造り方も、原石を使いやすいように加工するだけ。
 アリオンでは、タスラムと呼ばれているらしいけど」
「へえ……」

蒼の光を眺め、吸い寄せられるように手のひらを差し出すイヴ。
ヒュイは拳をすっと遠ざけて、真摯に首を振った。

「本当はね。ヴァルシスでは使用を禁止してるものなのよ。
 アリオンから独立しようとしたとき、
 シャイエは、この石の売買と所持だけは固く禁止したの。名前もわざわざ変えて」
「ミストル……?」
「テイン。意味は、……災いの矢。
 ただの自然物なのに、唯一神を殺せる凶器になった、宿り木の名前からとっているの」
「最強の武器なのに、禁止したの?」

怪訝そうなイヴに、ヒュイは微苦笑して小首をかしげる。

「この石は、ずっとずっと昔から
 人間が戦争をしている地域の、綺麗な滝の奥にだけ、結晶をつくるの。
 使いこなすには才能と努力がいるけど、数には絶対困らない。

 アリオンでは、神から借りえた『神具』だといって、これを崇めているけど
 シャイエは、……そうは思わなかったみたいね」


「その話なら、十八番だったんだがな」


驚いて二人は、広間のドアの方を振り返る。

いつの間に戻っていたのか。

壁にもたれて腕を組んでいたアレグレットは、
不満そうに大剣を担ぎ上げ、暗がりから灯りのなかに踏みいった。


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