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 納得 いいはなしだなー
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英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅱ

 
 納得 いいはなしだなー
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「おとぎ話でも、してやろうか」
暖炉のまえで胡座をかいていたその男は、手を打って呟いた。

古びたベルベットの絨毯を埋め尽くしている、人間の背中の海。
壊され、夜空がぬけている部屋の一角からは、粉雪が降り込んでいる。
ひろい広間をぐるりと取り囲む、屈強そうな男たちの肖像画。
床におち、雪とホコリをかぶった、愛嬌のあるシカの剥製。
広間の出口には、ぴしりと背をのばした鎧が一体、立っており、
ところどころ背中の海がとぎれた場所は床がぬけていて、床下の地面が見えていた。

てるてる坊主のようにすっぽりと、煤(すす)けたシーツをかぶったイヴは、
橙の光のなか長い影をのばして立ちつくし、男を見下ろしていた。

男は長いまな板のような巨大な剣をひざの上に置き、
この氷点下にも関わらず、無数のえぐり傷がのこる逞しい上半身をさらしている。
自分より遙かに小さな少年を見上げ、
男は、促すように苦笑した。

「眠れないんだろ。 どうすんだ?」

イヴは男を凝視して、ガタガタと白い息をこぼしている。
男は苦笑を保ったまま、器用に10秒間を過ごした。


11秒後のことである。


「どうすんだオラアアアッ!!!」
「イヤダアアァッ!!」

大剣を振りかざし、血走った目で雄叫びをあげる男に、
イヴは背中の海を踏みつけて、こけつまろびつ逃げ出した。
踏まれた背、踏まれてもいない背が、近場から徐々にむくむくと起き上がる。

「……何したの。アレグレット」

肘をたてて上身を起こし、気怠げに長い銀髪をかきあげた足元の女に、
男───アレグレットは振りかぶった大剣を白々しく下ろした。

「俺は。何もしていない。今回は」
「したよ!! 気持ち悪いこと言ったよ!!」

背中の海原を渡りきり、部屋から出られるドアに背中をはりつかせて叫ぶ、
すす色のてるてる坊主。
面倒そうにふりかえった、多くの眠たげな老若男女の顔に叩きつけるように、
イヴは渾身の声をはりあげる。

「眠れないなら、おおおおオトギ話!!してやろうか、って!!!」


部屋は、寝静まっていた時よりも遥かに、静かになった。


壁に背と手をはりつかせたまま、息をつめているイヴから
怪訝そうに皆を見下ろしている、アレグレットへ。


ぐるりと旋回した50近くの顔が、一斉にわめきだした。


「アレグレットが悪い!!!」
「アレグレットがお伽噺……?」
「どうせ森に迷い込んだこどもが斧で狼を虐殺しだすんだろ」
「無理にフィクションに頼らなくていいよ、もうアレグレットがおとぎ話だよ」
「いっそ絵本に帰ったら? 仲間が暖かく迎えてくれるわよ、怪物が」
「あー、目が覚めた」

言うだけ言い、のそのそと床に寝ころんでいく人々。

ひとり、アレグレットの傍で身を起こしている銀髪の女だけは、
床に頬杖をついて楽しそうに笑っている。
アレグレットは仏頂面で、女の視線をさえぎるように大剣をおろした。

「何だ」
「いいえ? どんな夢お伽を聞かせて下さるのかしら、って」
「もう話さん。気が失せた」
「そう? 残念、損をしたわ。ねえイヴ」

女は仰向けに寝転がり、恐る恐る壁伝いにカニ歩きして戻ってきたイヴを見やる。
イヴは気まずそうに、暗がりの壁にぺとりと貼りついて、
再び暖炉前に腰をおろしたアレグレットを、ちらと伺った。

アレグレットは、落としていた視線をギロリとイヴに差し向ける。
ぎょっと顔をそむけるイヴ。
さらに白目の中で、逃げうる限りに紫紺の瞳をそらしている。

「おい」

ドスの利いた、低い声が囁いた。
イヴは目を横に逃がしたまま、強張った顔だけを何とか、声の主へ向ける。
しばらくの逡巡のあと、
イヴはようやく、暖炉の方を見た。

たくさんの仲間の背中が、床を埋め尽くしている部屋。
その端に横たわり、優しげにイヴを見ている銀髪の女。
暖炉の前で大きな剣をひざに置き、火影に照らされているアレグレットは
イヴをまっすぐと見据えている。


やがて彼はふっと、微苦笑した。


「緊張はとれたか」


大剣を担ぎ上げ、アレグレットは壁に張り付いたイヴに歩み寄る。

「初戦の夜は、誰でも緊張する」

大きな手のひらで、釘付けになって見上げるイヴの額をぽんと叩き、
横を通り過ぎるアレグレット。
イヴは呆けた。
呆けたまま振り返り、うわごとのように、大きな背に問いかける。

「アレグレット、も……」
「アレグレットは、とくべつ」

銀髪の女は身を起こし、軽く伸びをした。
妖艶な容姿に似合わぬ、無邪気な笑顔をうかべて、彼女は付け足す。

「と。いう事にしておきましょうか。一応この国のリーダーだから」
「リーダーじゃない」

間入れず、淡泊な声が割り込む。
アレグレットはどこか近寄りがたい気配をにじませ、
二人に背をむけたまま呟いた。

「ヴァルシスに、リーダーは居ない。100年前からそれは変わらない」

迷いのない言葉だった。
銀髪の女はそっと目を逸らし、ひとりごとのように囁く。

「アリオンに勝って、ヴァルシスがアリオンから独立出来れば、
 最も独立に貢献した者が王になるんじゃないの? 民衆の支持を得て」
「ここはそういう場所じゃない」
「アレグレット。もし戦争に勝ったら」
「ヒュイ」

わずかに振り返る素振りをして、アレグレットは再び、銀髪の女───
ヒュイの言葉を遮った。
伏せがちに顔を背けたままのヒュイを一瞥し、
アレグレットは突き放すように扉を押し開く。

「……俺の先祖の前で、そういう話はしないでくれ」

振り返らず、広間を出て行くアレグレット。
パチッ、と大きく、くずれた薪が火の粉を散らした。
部屋は不気味なほどに、物音ひとつ、寝息ひとつ無い。
小さく息をついて、ヒュイは肩をおとした。

「先祖の前だから、したのよ」

ヒュイが哀しげに見上げる先にならって、イヴもそっと顔をあげる。
部屋をぐるりと取り囲んでいる、たくさんの男の肖像画。
最も絵として年若い、まだ新しい肖像画の中に、黒の正装を着た、
実物よりいくらか威厳のあるアレグレットがいる。

イヴはそれを見上げながら横目で、黙っているヒュイを心配そうに盗み見た。
ヒュイは頤をあげ、哀しそうに微笑んでいる。
憂いげな、深い蒼の目にゆらぐ火影。銀の長い髪が橙に透きとおっていて、

イヴは思わず、彼女の横顔に魅入った。


「本当にアレグレットは、メルヘンな男だよね!」


地響きのような、ずぶとい声だった。
びくぅっ! と、肩を跳ね上げるイヴ。
四方上下を目まぐるしく見回し、誰も起き上がっていない室内に目を白黒させ、
やがて笑いをこらえているヒュイと目が合う。

「な、な……なに、どこ、誰?!」

顔を真っ赤にしながら口をぱくつかせるイヴに。

「は、はじめてこの屋敷に来た時は、私もそういう反応をしたわね」

ヒュイは涙が出るほど笑って、扉の方を指さす。


不意にガシャッ!と音をたてて、扉の横の鎧が首を傾げた。



「もう、存在がメルヘンですからね! 英雄シャイエの第一側近の家系ですからね!」



兵士の鎧は誇らしげに胸をはり、剣をかなぐり捨て、
ガショッ!! と諸手をあげて絶叫した。




next episode ...  メルへン Ⅲ


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