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 英雄の伽《とぎ》     インタールード―― 幕間 Ⅰ ご挨拶&小説の更新情報
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あまた、シロウサギ。

ある配達屋の華麗なる道草

 
 英雄の伽《とぎ》     インタールード―― 幕間 Ⅰ ご挨拶&小説の更新情報



朝、ベットを降りるより先にすることは、窓をあけて朝の空気をびん詰めすることです。
正方形のベットの真横にある丸窓には、人間の歯並びのようにぐるりと瓶が生えていて、
スルメイカや、ロリポップや、削りたてのエンピツが詰まっています。
夜の読書の時、眠気覚ましに朝の空気がとてもよく効くので、
こうやって特大サイズのガラス瓶に、朝をとっておくのです。
隣の部屋に住む夜食の帝王は言います。

「それは嘘だね。びんの中はただの空気、眠気などに効くはずない」

そうですとも。
そういうことも、あるでしょうな。



―― ある配達屋の華麗なる道草 ――



ぼくの仕事は、配達屋。
この小さな町にやってくる、ぼくに何の関係もない恨みつらみや愛のことばや金の請求が綴られた文書を、毎日せっせと見知らぬだれかに届ける仕事です。
ぼくはチューリップと同じくらいの背丈で、ぽよんとお腹の出たウエストにだぶだぶズボンを履き、深緑の大きな帽子をくりくり跳ねまわる髪にのせ、黒いメッセンジャーバッグをひっさげて、亀よりは早く歩きます。みんなはぼくを、配達屋さんと呼びます。この町に、固有名詞を持った人はいません。手紙の宛名を見ると、牛乳屋さん掃除屋さん新聞屋さん売春婦さん町長さん。 ね。 居ないでしょう。
でもぼくは、手紙を届けたことは数えるほどしかありません。
今日も他の町の郵便屋からバックいっぱい手紙を預かりましたが、今日は天気がいい。
天気がよいのです。
じゃあ、道草でしょう。
町一番のパン屋の旦那は、ケーキを焼きながらこう言います。

「それはおかしいね。君は配達屋なのだから、配達をしなければ」

そうですとも。
そういうことも、あるでしょうな。



天気の良い日の道草といえば、食べ歩き。
コスモスの花がさく予定の花畑で、ヤキイモなど食べるのが嗜みでしょうな。
だがそんなことはどうでもよろしい。
町の広場に出ていた花屋で、ぼくは酒を買いました。年代物。一本200円。いつもこの広場で酒を飲んでいる政治家がやれやれと首をふって言いました。

「いいチョイスだ」
「どうもどうも」

おちゃめにカンと瓶をかちあわせ、ぼくは政治家に手をふって、広場を後にしました。
青空が透けるよう。ほんとうにいい天気。たとえ今、この空のもと世界中の人が窓から首を吊ったとしても、蒼の華やかさは影るまい。そうとも。なんて関係のない美しさなんだ。
ぼくは開けていない酒瓶をベルトにさし、空を見上げてゲラゲラ笑いながら歩きました。
すれちがった町一番のギャングが、ピアスだらけの眉をひそめて言いました。

「頭おかしいのか?」
「いいえ!」
「その酒、くれよ」
「いいですとも!」
「頭おかしいのか?」

ギャングは心配そうにぼくの頭を撫で、酒瓶を抜きとることなく去っていきました。


道草の時間は、なんと早く過ぎていくものなのでしょう。
太陽が西の山間に沈んでいきます。ひょいとつかんで、東に投げ飛ばしたい。いやしかし、今日の仕事を終えてほっとしている彼にそんな非道はできません。太陽とはなんと規則正しい者なのでしょう。中の人は気が狂っている。絶対友達にはなれないでしょうな。相手の気が狂ってしまう。
ぼくはバックを開けました。今日配達する用の手紙が、たくさん詰まっている。これは町でいちばん隅の森に住む町長あて。これは町でいちばん遠い池に住む釣り屋宛て。これは。これは。やっかいな場所ばかり。ああ。しかしドブに捨ててはいけません。それだけはダメなのです。
ぼくは仏頂面で酒瓶を抜き、ひとくち含んでブーッ!と吹き出しました。
酒は美味でした。
そんなことはどうでもよろしい。

いいことを思いついた。

ぼくは酒の蓋をしめ、短い足で懸命に地を蹴って、日の沈む町の広場へと走りました。




「マツリ?」
「そうですとも。今夜これから、祭りをいたしましょう」

息を切らせ、そびえる木製のカウンターの下から腕をいっぱい伸ばしたぼくを、
町一番のパン屋の旦那が怪訝そうに引き上げました。
バスケットいっぱいに売れ残ったパンを食べながら、旦那は首をかしげます。

「なにを祝うんで?」
「いやいや、なんでも! 今日の天気の良さでもいいですし!」
「ハア」
「その売れ残ったパンの供養でもいいですし!」
「それなら、毎日やらにゃ」
「次のことはどうでもよろしい、今が大事なのです」
「へえ。 いいけど、なんで俺に言う。町長に言え?」
「なにをおっしゃいますか」

ぼくは旦那の胸をどんと叩いて言いました。

「祭りなど、誰が始めてもいいでしょう」

そうしてぼくは、町の広場にある町一番の店々に、華麗に声をかけたのです。





夜は明るく、楽しいもの。
とりわけ今夜は、昼の空に負けぬ鮮やかさでした。
町の広場は大勢の人で賑っています。パン屋の旦那が売れ残ったパンをこんがり焼き、となりのジャム屋がそれにチーズをたっぷりつけて振舞っている。花屋の女性は酒瓶に花をそえて配り、町いちばんのギャングは歌がとてもうまかった。酔の冷めた政治家は広場の真ん中で、酔った町の人達に拍手を送っている。ぼくのメッセンジャーバッグはとても軽くなり、のこりはあと一通になっていました。
すると広場にようやく、年老いた町長が現れました。
寝間着のうえにコートを羽織り、スリッパでオロオロと戸惑い、何の騒ぎだね、なんなのかねとひとり呟いている町長に、ぼくは言いました。

「町長宛てです」
「なに。私宛てだと?」
「はい」
「私のための祭りなのかね?」
「そうともいうでしょうな」
「なんと」

町長は目を点にし、そのつぶらな瞳にうるうるっと涙をため、わたしのためか。そうか。誕生日だからか。とあたりを見回し、ギャングの歌が響く人だかりのほうへ歩いていきました。ぼくは町長のポケットにそっと、手紙を入れました。

今日の仕事も、無事終わり。
ぼくはふんっと満足した鼻息をふき、ベルトに差したままだった酒瓶の蓋を抜きつつ、広場のベンチによじのぼりました。
その2人がけのベンチには、先客がいました。
長い綺麗なツインテール。うさぎの毛皮のようなふわふわ白いケープ、膝丈の黒いワンピース、小さな足に紅い靴。町でいちばん幼い、まだ役職のない少女でした。
少女は分厚い本から顔をあげて、呆れたように言いました。

「のんきなものね」

ぼくは、酒を飲む手を止めました。
少女はちらっとぼくを見て、次にパン屋の方へ、きれいな顔を向けました。
店前にかかった時計は止まっていました。
少女はまた呆れたように、ケープの下から懐中時計を取り出しました。
おもわず首をのばして覗き込むと、夜の10時を回っています。
宴もたけなわ。そろそろパンも酒も尽きて、みな帰っていくころでしょう。
少女はパタンと本を閉じ、胸にかかえてうつむきました。

「こんな適当なことばかりして、きっとこの町、だめになるわ」

哀しそうに、すがるようにぼくを見下ろした少女の目は、とても綺麗でした。
ぼくは優しく笑って、一生懸命手を伸ばして少女の頭を撫でました。

「そういうことも、あるでしょうな」
「イヤよ。そんなの」

そうですとも。
ダメになって、インキになった世界ほど、苦しいものはない。
ぼくはうっすら涙をためる少女と手をつないで、大きな口をあけて笑っている町の人を見つめました。

「そのときは、また道草ですな」
「どんどんダメになるじゃない」
「いやはや」

ぼくはにっこりと、少女を見上げて笑いました。

「人生は、華麗なる道草でありましょう」

本筋など、しれたものではない。
夜に読もうと思っていた本も、瓶づめした朝の空気も、無駄になってしまった。
しかしこんな夜もまた粋なもの。
ぽかんと口をあけた少女の口に、ぼくは七色の飴玉をひとつ、放り込みました。
少女はすこしだけ目を見開いて、しかし拗ねたようにぷいと横を向きました。

「わかんないこと言って。道草ばっかりしてるのは、ばかなひとよ」
「そうですとも」

ぼくは頷き、にっこりと笑いました。

「しかしながら、こんな道もまた、粋ですな」



明日の道が知れない。

ゆえにぼくはいつだって、幸せなのであります。






           ―――END


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