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 タイムマシンは作らない方がいい。 ある配達屋の華麗なる道草
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英雄の伽《とぎ》     インタールード―― 幕間 Ⅰ

 
 タイムマシンは作らない方がいい。 ある配達屋の華麗なる道草
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ちりん…

エイルを米俵のごとく担いだまま、川の白岩を飛びつないでいたチェシャは、
ぴくと耳をふるわせて立ち止まった。
川は浅く、瑠璃の滝つぼに流れ込む水しぶきが虹を創っている。

チェシャはエイルを抱え直し、抜け目なくあたりの森を見渡した。

「おろせ! あいつを『落とす』……!!」
「だめ。 そんな顔色悪いひとに落とされちゃ、たまったもんじゃねえのだわ。
 イヴならへいき」
「私も平気だ、自分で歩く!」
「うるせえのだわ!」

エイルを滝に投げ飛ばし、チェシャはゆらりと川下を振り向く。

3人。
先程まで影もなかった3人の男が、それぞれ白岩の上でチェシャを見下ろしている。

白十字。
双子星。
逆三日月。

3人の手の甲にはそれぞれ、別のマークがついていた。

白十字が笑う。

「チェシャ、アリオンの手伝いか? たまに私好みのことをするなあ、お前は」
「チェシャはいつもおまえギライなのだわ」

双子星が嘲る。

「中立の記録者が…なぜアリオンの軍人を助ける? とっとと殺せ、イヴも殺せ」
「それは、虐殺者の仕事。中立かんけいない」

逆三日月が嘆く。

「イヴなんてどうでもよろしい、とりあえず貴方には仕事があるのですよ。
 今日の分の歴史を、覚えていただかなくては」
「おまえの手は借りない。 捏造がおおくて、二度手間はきらいよ」

そして黒十字のマークを身につけているチェシャは、
3人の威圧的な男を前に、―――微笑んだ。

「ちょうどいいのだわ」

愛らしい腰を振って、
川面にうつぶせ、滝に背を打たれているエイルを返り見る。
ぶくぶくと水面に泡を量産している顔を抱え上げて、
チェシャは真面目にひとさし指をたてた。

「歴史のべんきょうなのだわ。わたし、プロ」
「…は……? ゴホッ」
「この森はヴァルシスの縮図。
 3つの勢力のしたっぱが、情報収集とナワバリ争いをくり広げてるの」

教えてあげるのだわ。 あなたが壊した、国のこと。

どうしてヴァルシスが、アリオンと戦うことになったのか。
なにもかも無くしてあやつり人形になっているあなたに
今を整理してあげる。

「イヴとはここで待ち合わせなのだわ。だから合図があるまで、見てくるといい。
 ヴァルシスのこと、イヴのこと、―――あなたのこと」
「私の…?」
「あなたの日記。あれは大嘘なのだわ。特に…クルグスさんのあたりが。
 大尉さんが信じるかどうかは、分からないけど」

少しだけ哀しそうな笑顔をうかべたあと、チェシャは小首をかしげた。

「てらしあわせて、みておいで」
「なんでお前が……そんなことまで。
 敵国の軍人だぞ、もうちょっと敵意を……!」
「チェシャはすべてに中立。それが義務。だからあなたにも、平等の権利を」

チェシャは不気味にも、淡々とつぶやいた。

「あなたは―――自分がトロイの木馬だってことを、分かった方が良い」

ふわりと、エイルの襟を手放した。

「と、いうわけで! 一名様ごあんなーい!!」

ゴーッ!と轟音をたてて、エイルの体が川面にうずもれる。

「ちょ…! ごぼjbgkdwh;lg」


平等? トロイの木馬?
日記が、嘘?
いったい、何のことだ?

ゆらぐ水面の上で、チェシャがぱちんとウインクした。

「バイバイ♪ なのだわ」



Interlude インタールード   Ⅰ




蒼の世界に溺れ、エイルは巡り来る映像の渦に目を走らせる。



―――ペンデュラムライン。

落としたことは山ほどあるが、落ちたのは久々だった。
ここは、チェシャのミストルティンが管理する「ライン」なのだろう、
本流から分岐した末端。色が蒼だからそう分かる。
本流はもっとどす黒くて、暗くて、もっとたくさん声がする。

気が狂うほどに。

ヴァルシスの歴史の記録を綴った、ライン。
流れゆく映像のなかで、ひとつの窓が迫ってくる。

狭い牢獄だった。
10歳ほどの身なりのよい少年が、牢屋の前に座り込んでいる。
金髪碧眼、非常に育ちのよさそうなその少年は、
あぐらをかいて牢の鉄格子に鼻先をつけていた。
暗く湿った牢に入っているのは、傷だらけで半裸の優男……これは、何だ?

「あなたは、悪い人なの?」

エイルは足が、固い石床につく感触を感じた。

二人はエイルに気付いていない。
これはラインに落ちた「記録」。かつて生きていた人間の記憶だ。

では、誰の?

「悪いかどうかは、テメーが自分で決めればいいんですよ。
 特に俺は。 思想犯ですし」
優男が、肩をすくめてうそぶいた。

「こんな檻にブチ込まれて、俺は可哀想だと思います?」
少年は、何度か瞬いたあと、首を振った。

「ぼくには、世界中から 守られてるように見えるよ。 ダルオンさん」

エイルは、音もなく息をのむ。
ダルオン?
では、まさかこの少年は―――
優男、ダルオンは肩をくつくつと震わせ、手足の鎖をがちゃつかせた。

「じゃあコレを取ってくださいよ。領主のムスコでしょう? 
 アリオン一の処刑の街、ヴァルシスの次期領主様。たまには囚人を救ってください」
「いまのぼくに、そんなこと出来ないよ」
「ウーン、でしょうねえ。 はっはっは、ハア」

ダルオンは額を床に打ちつけた。ぐったりとトドのように横たわり、
薄く笑いを浮かべたまま、目だけを暗く淀ませる。

「無念」

そうつぶやいたのは、檻の外の少年だった。
少年は真新しいベストが汚れるのもかまわず、
腹ばいになって、無垢な目を囚人の顔とぴったり、向かい合わせた。

「ねえ。 7年って、長いかな」
「君には、長いでしょうねえ」
「あなたには、7年は短いの?」
「それなりに長いでしょうねえ。生きて、いられたらば?」
「そうなのか」

少年は立ち上がった。
ダルオンは片眉をあげ、犬歯までみえるほどに口のはしを吊り上げた。

「なんです? 出前でも届けてくれるんですか? 俺はニワトリしか食べませんよ」
「もっとおいしいものあるのに。 卵やきとか」
「美味しいかどうかは、テメーで決めるものです」
「そうなのか」

少年はこくりと頷いた。
ガン!ガン!と、堅固な鉄扉が外側から叩かれる。

「坊っちゃーん、そろそろ出ないとまずいッス! バレたらお父様に殺されます!
 俺が!」
「うーん…」

覗き穴からわめき声をよこした、つぶらな瞳から目を逸らし、
少年は名残惜しそうに檻の前を一周した。

「坊っちゃん! ああもう、シャイエ様!!」
「うんうん。 もう行く」

頷いて、少年―――シャイエは、牢獄に歩み寄った。
膝をついたシャイエは、口元にちいさな手を寄せて囁く。

「ぼくね。 あなたの本を読んだんだ」
「……へえ?」

ダルオンは、どうでもよさそうに空返事して、ぼりぼりと頬をかいた。

「でも、途中までしか読めなかったんだ」
「フウン」
「取り上げられたんだ。父様に」
「そりゃあ、そうでしょうねぇ。自分の子が思想犯の本を読んでたら、
 それだけで親はキチガイになるでしょうよ。あなたの父はマトモです。マトモ」
「でもぼくは、全部読みたかったんだ」

ダルオンは居心地が悪そうにがりがりと頭を掻く。

「もう売ってないんだ。図書館にもないんだ」
「そいでなんですか。俺にどうしろと言うんですかい」
「自分の本、全部覚えてる?」

うんざりと頭を垂れたかと思うと、ダルオンは髪を振り乱して怒鳴った。

覚えてるに決まってるだろう、クソ野郎が!!
 そのどーしょもないクソ思想を振りかざしたあまり俺はココにいるんですよ、
 なんなら脳内読み上げてやろうか、毎日気が済むまで!?」
「ホント!?」
「おいふざけんな、めんどくせえ!!」
「坊っちゃーん!! 殺されますって、俺が!!」


なんだ。こいつら。
たぶん世にも高名な人物であろう彼らの、ひどく賢明でない会話を、
エイルは口を開けて聴き続けた。

―――シャイエと、ダルオン。

アリオン連合国中の流刑人を入れた牢獄と、処刑台だけが名物だった、
山間に囲まれた「処刑の街」、ヴァルシス。

100年前、そのただ中から独立を叫んだのは、
ヴァルシスの領主シャイエと、流刑に処された元囚人・ダルオンだったという。

『……シャイエとダルオンの、出会い…?』


映像が霞んでゆく。

蒼の世界に引き戻される。



―――幕間は、はじまったばかりなのだわ。



楽しげな少女の声が、聞こえた気がした。


to be continued


さて、はじまりました「整理編」。
このインタールードを抜ければ、こっちのものさ(ほんとかよ)
だいぶ進んできましたが、
改善点や感想など、教えてくれるとすごくうれしい。
お気に入りは意外にもチェシャ。
ぜってえ好きになりそうもねえなと思ってたのに、人生わかりませんね。
仕事と並行していくので、ちょっと遅くなるかもしれないけれど
どうか、お付き合いください。
読んでくれてありがとう!



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