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 英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅳ タイムマシンは作らない方がいい。
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英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅴ

 
 英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅳ タイムマシンは作らない方がいい。
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第四章 鈴の音が聞こえない―――Ⅴ




「……あ」

それは、突然のことだった。


広場にイヴはいない。
少し前、彼はウンコだと言って森の奥へ入っていった。
あと30秒、戻ってこなかったら『落とす』―――木陰で体をやすめながら、
エイルがそう決めた矢先のことだった。

『スーパー漢方を煮たミラクル煎茶があるのだわ。きっと体調も良くなるから!』

ロッジから持ってきたツボをかかげ、
死ぬ気でいやがるエイルの口に壺ごと突っ込もうとしていたチェシャが、
唐突に、心臓でも貫かれたかのように固まった。

「……あ」

耳元で流れ出した熱湯の滝を、エイルは光速の勢いではねのける。

「あ?」

いささか恐喝じみて睨んだエイルも―――また、息をつめて固まった。
聞こえる。 今聞こえた。 あの、音。


ちりん…ッ


馬乗りになっていたチェシャが駆け出すのと、鈴の音は、
同時だった。
身をかがめ、白ネコが翠の地を疾走する。
軽々と、広場の中央に立つ高い切り株に飛び上がり、
チェシャはふわふわの白コートを、舞い上がる風に流した。

すらりとした肢体に、黒のタンクトップ。
白一色に見えたふわふわのスカートは、すその白段のうえに黒十字の柄が入っている。
腰元にひらく蝶々からのびた端は片方だけが長くなっており、
それはさながら、黒猫のしっぽのようだった。

「だめよ。 ルール違反なのだわ!」

腰に手をあてて、仁王立ちしたチェシャは、
さわめく森相手に顔をしかめた。

「ここはチェシャのおうち。 彼らはチェシャのお客さん。
 それでもほんとにやる気なの? このどろぼー猫!」

エイルは別の意味で痛んだ頭を振り、剣を手にふらりと膝をたてた。

「まだ気狂いがいるのか……?」
「なにしてんの、大尉さん」
「なにって……、ッ!」

ネコのように首を引っ張られ、エイルは腰を木の根に思いきり打ち付けた。
咳き込むエイルを見下ろし、いつのまにか傍に来たイヴはため息をつく。
ローブの下で組んだ両腕には、深い藍のアームウォーマーをつけていた。

「じっとしてて。 息するだけでもきついんでしょ」
「おま、えな……そう思うなら、ゴホッ」
「だから、サラドールはやめた方がいいって言っただろ?
 大尉さんがひとりで片付けてくれるだろうなーってにやにやしてたのに、
 このヘタレ野郎が。 ここはめんどくさいんだよ、勢力がさ」
「勢、力……?」

のど元をおさえ、なんとか首をもたげたエイルの胸元を、
イヴは古びた本で軽く押しおさえた。
あまりに大人びたイヴの表情に一瞬、エイルは目を奪われたが、
自分の重石になっているその本に息をのんだ。

ぼろぼろの皮の背表紙。手のひらにおさまるほどの、小さな本。
表紙には、エイル・ウェリテリセという署名と、
ほとんどかすれて読めなくなったDIARYの文字があった。

本を奪い取り、エイルは今度こそ、殺気をむきだしにする。

「おまえ……!!」
「暗号みたいな日記だね。ほとんど何が何だか、分からなかった」

イヴはからかうでもなく、ただ診断する医者のように淡々とささやく。

「もしかして、大尉さんにももう、分からなかったりするんじゃない?」

立ち上がり、イヴは哀れむように、言葉をおとした。

「ヴァルシスの勢力図だって、
 …まあアリオンは皆殺し主義だから軍学校では教えないだろうけど、
 だれかに、教わらなかった?」

誰かに。
そこに妙な含みを感じて、エイルはうんざりと日記を突きつける。

「誰にも教わっていない! 何を読み取ったのか知らないが、
 私にそんな面倒見の良い知人はいないし、この日記も理解してる!
 余計なお世話だ…!!」
「そうだね。でもその日記、あんまり信用しない方が良いよ。
 勢力については、あとで教えてあげる。
 あんたは敵って言うより、…何も知らずに闘ってるみたいだから」

イヴは、切り株の上に立つチェシャを見上げる。
チェシャは凛として顎を引き、前に向き直る。
イヴはローブをするりとほどいた。


「俺がアリオンで処刑されれば、あんたはそれでいい。
 …でもさ、」


見上げるエイルの前で、イヴはその華奢な身をさらした。

ベージュの半袖に、白のフード、迷彩色のズボン。
瑠璃の蒼とも藍とも色を変える、玉虫に似た光沢のウォームアーマー。
手の甲にはチェシャと同じ、黒十字の刻印が入っている。
イヴはローブを腰のベルトにくくりつけると、確信したように言い切る。


「俺をアリオンに連れて行く事自体、本当はもっと考えた方が良い。
 このまま誰かの言いなりに進めば、近いうちに後悔するよ」

「……なんだって?」

「ヴァルシスで俺を殺しておけばよかったって、あのお姫様は絶対、泣き叫ぶ」

イヴは酷薄に微笑んだ。


「7日後に処刑台にあがるのが、本当に俺だといいね」


どういう、意味だ。
そう問う前に、イヴは光の方へと疾走した。
ひらりとイヴが、チェシャの横に降り立つと、あたりの森が不意にざわめきを増した。

「大尉さんのカバーは任せたよ。チェシャ」

チリン…

イヴは、笑っていなかった。
張り詰めた空気のただ中で、森の一点を見下ろしている。

ちりん、ちりん…

チェシャは一瞬、エイルの居る木陰を振り返ろうとする。
彼女の肩に置かれたイヴの手が、それを引き止めた。

「見るな。 協力させちゃダメだ」
「ちがう、大尉さんじゃなくって、すずのね……」
「聞こえない」

イヴにかるく押し出され、チェシャは空に身を落としながら、言った。

「チェシャには 、きこえる、よ」

イヴは、森の一点を見つめている。
身をひねって、優雅に着地したチェシャは、今一度 木陰の方を振り返る。

「イヴの、なかま……?」

森が啼いた。

無数の青板が、広場を囲む。
ガラスの割れるけたたましい音が、カラスを空に舞い上げた。
エイルはなんとか膝をたて、剣をかまえる。
広場を、50人の男がとりかこんでいる。
蒼の粉を踏みしめ、もっとも頭の軽そうな若者が、イヴに向けて叫んだ。

「おかえりなさいませえ! ヴァルシスの英雄様ァ!」
「ただいま? 相変わらずバカそうでなによりだよ、バカネコ」
「クソねずみ、アリオンに傷心旅行か?! 首と心臓は置いていけ」
「黙れよ」

どこか楽しげに笑い、イヴは芝生に降り立った。
長い銀の髪をはらって、丸腰のままで、イヴは小首をかしげる。

「できれば、波風なしで森をぬけたいんだけど」
「ダーーーーメーーーー」
「だろうね」

ニヤー、と口を三日月に吊り上げた若者を鼻で笑い、
イヴはチェシャを一瞥した。
うなづくチェシャ。
ただ状況をはかりかねるエイルだけが、棒立ちしている。

「森をぬけたきゃ、抜けるまで戦いなァ!!」

一斉にイヴへと襲いかかる男たち。
同時に地を蹴ったチェシャは、
エイルの腹にとびこんで軽々と、肩に担ぎ上げた。

「ちょ……ッ!」

反転する世界。
身をよじるうちにも、翠の深い方へとめまぐるしく世界が変わっていく。

「じっとして!」
「なんで、いったい…!!」
「森を抜けてから話すのだわ!!」

もう見えなくなった、彼の姿。敵の群勢。

エイルは思うようにならない体に舌打ちし、
ただ足早に流れる世界を、見つめるしか無かった。




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また変態がでてきた!もうおれはだめだ!(笑

いやいや。またまたツヅクよ。
書きたい場所が いっぱいあるんだ。


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