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 ユニバーサル・バニー 英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅴ
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英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅳ

 
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第4章 鈴の音が聞こえない ───Ⅳ




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枯れ果てた平野に、雨が降っている。
その中を、線香花火に似た紅花を腕いっぱいに抱えた少年がひた走っていく。
雨と、怒りに細められた琥珀の目には涙がともっていて、
馬のたてがみのように茂った大地に、しずくを散らしていく。

丘を切り開いた平野である。
眼下には霧にかすんだ町並み、丘なりの上には雲にかすんだ屋敷がそびえている。

「待て! 待てって、坊ちゃん!!」

霧の中、落ちた紅花を踏みつぶしながら、軍服を着た大柄な青年が怒鳴る。
一瞬足を止めるだけで蜃気楼になる小さな背中に、青年は舌打ちした。
平野のさなかに場違いに立っている石造りのアーチを、
少年が、やがて青年が駆け抜ける。
左右に、回廊の灯火の如く整然、延々と、墓石が並んでいる。

少年は、墓道の最後を飾る、まだ真新しい墓の前で足を止めた。
肩で息を押しだし、抱き込んでいた腕を、横殴りにふりはらう。
朱が舞った。
紅く、香り高い華が、白い墓標に飛び散る。

「エイル!!」

追いついた青年が、少年の脇を抱えて宙に引っ張り上げた。

「やめろ、ベンの墓だぞ……!」
「まだ死んでない!」

少年は嗚咽を絞り出し、必死に身をよじらせた。

「まだベンは息してる! こんな墓、要らないでしょう!?」
「本人が『混ざる』前に用意したんだ、毒の花なんか投げやがって……! 
 なに考えてんだ!?」
「怨めば良いんです!」

青年の顔が引き攣る。
少年は屈強な磔を引きちぎり、墓標を背に青年を睨(ね)めつけた。
ぼたぼたと涙をこぼしながら。

「怨んで、死ぬほど怒って、前みたいに俺を殴りに来れば良い……!!」

少年は、怒鳴りながら膝をついた。
散らばった紅花が、雨のしずくに濡れていっそう艶やかに香り立つ。
朱のまだらに顔をうずめて、少年は慟哭する。

「……皆……簡単に忘れないで欲しい……」

膝をついた青年は濡れそぼった栗色の頭に釘付けたまま、やがて力なく、座り込んだ。
ふるえ啼く少年は、冷えきった両手で青年の膝にすがる。

「クルグス……」
「…ん?」

雨に濡れ、沈んだ制帽のつばを、青年はそっとはじき上げる。
少年はいまだ地面に伏せったまま、かぼそい言葉をよこした。

「俺もいつか、クルグスやロンドのこと、忘れるんですよね」

青年は、灰の降りそうな空を仰いで、つぶやく。

「明日にでもな」

浅黒い頬を、細雨が幾重にもつたう。
少年は、青年の深緑の膝を、しわくちゃに握りしめた。
枯れた草の先から、
実ったしずくがぴち、ぴちと、少年の震える手に落ちて流れた。

「感謝を、前払い、出来たらいいのに」

少年の涙声に、青年はびしゃっと栗色の頭を叩いた。
顔を這いあげた少年を、青年は不機嫌に見下ろす。

「墓立てるよかタチ悪ぃから。それ」

少年の華奢な腕を軽々と引き、青年は立ち上がる。
泣き腫らした少年の小さな顔に、ぞんざいに制帽をかぶせて、
青年は穏やかに笑った。

「戦争終わったら、ロンドを嫁にもらうんだろ」

制帽からのぞく白い、綺麗な頬が一瞬、息をのんで引き攣った。
泣き出しそうにくちびるを噛みしめ、やがて、歯をみせて笑う。

「いつの話ですか。 それ」
「お前らが7歳くらいの時。 司祭頼まれた」
「覚えてないですよ、そんなこと」
「何ならロンドに聞くか?」
「やめてください」

少年は制帽のつばを押し上げ、すねた顔をのぞかせる。
青年は声をあげて笑い、短く刈り込んだ頭に、取り上げた帽子をぽすりと乗せた。

「こっちは全部覚えてんだよ」

頼もしい、笑顔だった。


───そんな、 微笑ましい誰かの夢を  見た。




蒼空と、若葉の翠。
うっすらと目蓋をあけたものの、あまりに眩しいその明かりから、
エイルは嫌そうに顔を背けた。
ついでに庇(ひさし)もかざそうかと、腕を持ち上げる。

「……?」

左手が動かない。
エイルは重たげに、目を開けた。

鼻先に、大きな赤の目々ふたつ。
興味心身といった様子で、愛らしい目が瞬いている。
桃めいた髪。傷一つない、やわらかそうな紅色の頬。
ネコのように顎のしたに両手を置き、少女がこちらを見つめている。

「なっ……!?」

誰だ。 どこだ。 いつだ。 知り合いか? 
体を強張らせ、動く方の手で腰元をさぐる。剣がない。

みるみる、さらに大きく見開かれる、少女の目。
やがて。

「おきッたあー!!」

少女はこぼれそうな笑顔で、大きなバンザイとともに跳ね上がった。
エイルはただただ呆然と、跳ねていく少女を見送る。
左腕がしびれている。 少女が下敷きにしていたのか。
少女は、奥に小さなロッジが見える、自然の広場に駆け込んでいく。

広場の中央に、高い切り株に腰掛けて、本を読んでいるイヴがいる。
切り株の下にようやく足をつけると、少女は背伸びしながら叫んだ。

「起きたのだわ! おわー、起きた!!」
「へー」
「ねえねえ! チェシャ、ちゃんと捜したのだわ!!」
「ほいほい」

頷きながら、イヴはひらりと切り株から飛び降りる。

「えらい?」
「えらいなあ」
「がんばった?」
「がんばったねえ」

イヴのローブを引っ張りながら、少女はこのうえなく嬉しそうにニコーッと笑った。
エイルが身を起こした木の下に、歩み寄る二人。
呆然と見つめる視線に気づいたのか、
イヴは古びた本を肩に担ぎ、そっけなく小首を傾げる。

「俺が誰か、分かる?」
「囚人だな」
「いいよチェシャ。絶好調だ」
「ぜっこーちょう!!」

嬉しそうに笑って、少女は がっ!と拳を突き出す。
少女の首もと、純白の羽根のようなふわふわ服には、
鈴のような飾りがついている。

「彼女は?」

エイルはイヴに、剣呑な目をさし向けた。
少女は少しだけ目を丸くして、イヴのローブの後ろに隠れる。

「おこってる」
「この人はいっつも怒ってるんだよー」
「彼女は誰だ?」

イヴと少女は、顔を見合わせた。
イヴが顎でしゃくる。 
少女が、千切れそうなくらいブンブンブンと首を振る。
イヴが少女を前へおす。
少女は口をあんぐり開け、1歩下がってイヴのすねを蹴っとばす。
エイルはエスカレートしつつあるど突きあいを追い払うように、

「どっちでもいい!」
「わかった、チェシャが言うのだわ!」

きっ! と勇ましく、愛らしいひとさし指をエイルに突きつけた少女は、
一瞬吊り上げた目を、またほにゃー、と和ませる。
ふわふわの白スカートを弾ませながら、少女はまっすぐに手をあげ、宣言した。


「チェシャっていいます!!」


きっかり、3秒後。
エイルは珍しく殺気を露わにして、腕を組んだ。

「で?」

「ホアッ……!?」
「ごめん、俺が言う」
「ま、待って! いまのは練習なのだわ」
「ダメだ。 残念だけど人生はいっつも本番なんだよ、チェシャ」
「め、名言……!!」

文字通り雷に打たれたように、感動したまま動かなくなる少女───チェシャ。
イヴは慣れたようにチェシャを置いて、エイルに向き直る。

「悪いね。 こいつ変わってるから。 いろいろと」
「……それで?」

エイルは脱力し、溜息をついて木にもたれ掛かった。
イヴは親指でうしろを指しながら、いたずらっぽく笑ってみせる。

「語り部だよ。 このサラドールに住んで、ヴァルシスの歴史の記録係をやってる。 
 3年目のミストル使いだ」
「チェシャは真理を知っている」

不意に響く、おとなびた声。
チェシャが、イヴのローブの裾から顔をのぞかせる。
紅い目をすっと細め、妖艶に笑った少女は、人差し指を自分のこめかみに押し当てた。

「お前の中も、ぜんぶ」

エイルは思わず背伝いに、身を引き上げた。
黒いローブから半分だけ顔を見せている少女に、妙な悪寒が背筋を撫でる。
エイルがただ、少女を凝視していると───



くりんと指をおさめ、チェシャはイヴのローブを握って微笑んだ。




「なあんて、言ってみたいのだわ」





tesya2.jpg



ただ愛らしく、微笑む少女。

ますます殺気を垂れ流すエイルに、


イヴはふうとひとつ、息をつくのだった。



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なんかまた変態が出てきたんだけど、収拾つくのかなこれ。
すべてはだいぶ風任せです。
だって創作は挑戦だっていうじゃにゃい!
がんばります。スランプ怖い。がたがた



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