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 英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅱ ユニバーサル・バニー
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英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅲ

 
 英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅱ ユニバーサル・バニー
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第4章 鈴の音が聞こえない ───Ⅲ


どうにも、具合が悪い。
エイルは制帽を直すふりをしながら、親指で眉間のしわを伸ばした。

瑠璃(るり)の森、サラドールはさらに色の深みを増し、
蔦(つた)と苔をふんだんに着こんだ大木は、森の隙間を埋め尽くすように
絡み合っている。
何かの鳴き声はいまや息をひそめ、しっとり濡れた空気が頬を、首すじを撫でていく。

けもの道に所々、トラップのように飛び出ている根を
爪先でいなしながら先行する黒テル坊主───イヴは、
無邪気に森林浴をしているようでいながら、さりげなくエイルに何度か、一瞥をよこした。

その小さな頭を鷲づかみ、
エイルは蛇口でも回すようにぐりっと正面にひねる。

「いッ…。いた、もげるよ大尉さん!」
「前を向いて歩け……後ろを見るな、まっすぐに」
「まっすぐ無理だよ。 道分かれてるよ」
「右だ」

分かれ道の片方、より蒼深い細道へイヴを押しやり、
エイルはもう一度、制帽を直す。
凜と顔をあげるものの、その反動か軽くふらついた足に、
エイルは片目を眇(すが)めた。

「ねえ。大丈夫なの?」

ぬっと、懐に飛び込んできた無垢な顔面を、
エイルは反射的に鷲づかむ。

「平気だ」
「イキ、デキナイ」
「まったく……」

イヴを押しのけ、エイルは仏頂面で歩き出した。
具合が悪いなんて、何年ぶりだろう。
腰元に追いつき、
なおも何か言いたげな顔を向けてくるイヴに、
エイルは溜息をついてローブのすそをまくりあげた。

「ワーッ!」

2ヶ月前の野菜を生で食べた時、一升の毒水を飲んだ時、
7日寝なかった時、銃弾でわりと穴だらけにされた時……
いずれもさほど具合が悪いとは思わなかったものだが、
大地の引力は、これほど強いものだっただろうか。気を抜けば倒れ込んでしまいそうだ。

そこらのマンドラゴラでも引っこ抜いたように、
エイルはまくったイヴのローブを片手に束ね持ち、
表情を引き締めた。
顔を覆われ、千鳥足を踏んでいるイヴを不機嫌に見下ろす。

「虫の居所が悪い。 白状しろ」
「何をだよ!」
「私に何をした?」
「知らないよ、だから心配してんだろ」

ふごふごと喚き、
不自由な手の代わりに地団駄をふむマンドラゴラ。
声こそ真摯だが、布の下でどんな顔をしていることか。

エイルは俄に、息をのんだ。
手からするっと、ローブが滑り落ちる。
ローブの中から意外にも、真剣に気遣うような顔を向けてきたイヴを、

エイルは 咄嗟に突き飛ばした。

樹木の壁に背中を叩きつけるイヴ。
エイルは剣を抜きざま、イヴへ間合いをつめる。
その蹴り上げられた土くれを、錆びついた槍が射貫いた。

蒼の鱗粉を撒き散らし、一瞬で霧散する槍。

木にもたれたままのイヴに肉薄する寸前、
エイルは身を翻し、飛来した2本の槍を薙ぎ払う。
よどみなく、木の葉の影さえ動かない辺りを睨み付けながら、

「おい」
「んー?」

のんきに小首をかしげるイヴを、エイルは自分の前に突き出した。

「働け」
「ハア!?」

振り返ったイヴの鼻先を、槍の切っ先がかすめる。
今し方 背を預けていた木から伸びたその刃を、
エイルは流れるように叩き切った。
目を見張るイヴ。
刀身についた蒼の粉を血振りのように軽くはらい、
制帽を目深にかぶり直したエイルは、
そっけなく、しかしわずかに意地の悪い微笑をうかべる。

「……冗談だ」

イヴは一瞬言葉をのんで、くやしそうに吐き捨てた。

「どこが具合悪いんだよ、くそが」
「悪いとも。 早く小細工をやめないと、うっかりラインを、」

飛んで来た槍を、無造作に打ち返すエイル。
頬すれすれにかすめた破片を怨みがましい目で見送り、
イヴは肩をすくめて言葉をつなぐ。

「『うっかりラインを、ひねり潰すかもしれないぞ?』」
「ひねり潰そうと思う」
「やめろ確信犯。 大体どれもコレも俺じゃないって、この槍は───」
「分かってる。 お前の味方ではなさそうだ」

剣を地面に突き刺し、胡散臭そうな目をしながら、
エイルは首もとからミストルテインのネックレスを引き出した。
「お前にも、敵はいるんだな」

森が啼き鳴いた。
剣の柄に手をかけるエイル。
刹那、その頭上の空がひび割れた。
蒼い光のガラスをぶち破り、
薙刀を振りかぶった男が身を躍らせる。

煌めく蒼を見上げ、イヴは自嘲気味に笑った。


「もう敵しか居ないよ」


エイルの肩口に、男の刀が食い込む。
刹那、エイルの姿は霧散した。
蒼の鱗粉をもろにかぶり、男が顔を攣(つ)らせる。

イヴは誰にともなく、呟いた。

「───な。 」

チリン…

男の足が土にめり込んだ時、
その爪先で、目を剥いた男の首が後頭部をしたたかに打ちつけた。
遅れて、屈強な体が膝をつく。
一瞬、呆けるようにだらりと手を垂れ下げ、静止した巨体は、
やがて後ろに倒れることを選んだ。

血を撒き散らし、地面に沈み込んだ男の向こうで、
エイルは剣を 鞘にゆっくりと収めきる。

森は、凪いだ。
残ったのは、新鮮な死体ひとつ。
エイルは蒼白い手の甲で、頬の古傷をなぞった汗をぬぐう。

「怪我は……ないか」
「……ないよ」

エイルは疲れを押し出すように深く、息をついた。
その息にのせるように、かすれた声でつぶやく。

「お前、さっき誰に向かって───…」

かくっと、エイルの右膝がおれる。
なし崩しに膝をついたエイルの懐に、黒いテル坊主が飛び込む。
傾いだ大人の体を肩だけで押し支え、
イヴは有無を言わさぬ気迫で囁いた。

「戻ろう」
「……なんだって?」
「さっき分かれ道があっただろ。 あっち側に、休める場所がある」
「まずくなったら部下を『出す』……森をぬけるくらい、問題ない」
「ミストルテインに『落としてある』部下?」

イヴは、呆れたように溜息をついた。

「まずくなってからじゃ、そんな大技使えないだろ」

エイルは身をよじり、イヴの支えから体を落とした。
今にも瞑ってしまいそうな目をこじ上げてはいるものの、
苦しげに息をするだけで、支える手は体を起こすに至らない。

とろとろとした血がぬらす樹皮を見つめ、イヴはつぶやく。


「肩くらい貸すよ」


二人の前でただ血を垂れ流す、残党の死体。
エイルは複雑な、蒼白の顔を一瞬、思いつめるように歪めた。

「やめろ」

かすれた息を吐き、膝をたてるエイル。
だがやはり───事切れたように倒れ込んだ。
血の染みた根の絨毯(じゅうたん)に、なお爪を食い込ませる姿を見下ろして、

イヴは、啼き叫んだ。

「やめてくれよ!」

蒼白な顔を、エイルは軋ませながら空向ける。
蒼と黒のまだらを背に、イヴが今にも、泣き出しそうな顔で叫んでいる。

「───なのに、どうしてあんたらは───なんだよ!?」

あんた等。
誰と、一緒にされているんだ……?

朦朧とした視界がさらに、水の膜でもはったように霞む。
小さな黒い影が迫り来て、木漏れ日を遮った。
何か怒鳴ってる。
でもうまく聞こえない。

「俺の前で───に──混ざっ───!」
「……何…?」

死の床の親を、必死につなぎ留めるような顔。
何故この子供は、こんな顔を私に向けるのだろうか。
そもそも、

この子供は、誰だったか。

「───!」

彼が叫んでいる。
彼の、ローブの首紐がほどけている。
がっちりと拘束布で固められた、華奢な体が見える。
エイルは思い通りにならない腕を何とか樹皮から浮かせ、
少年の胸板に手を押し当てた。

───可哀想に。

     取って、やらなければ。

蒼の光が、花びらのように散った。
腕をとかれ、一瞬呆けるものの、
少年はなおも縋(すが)るような目をこちらへ向ける。
役目を終えた腕が、落ちる。

「エイル大尉!!」

チリン…

誰かの名前を怒鳴る声。 どこか場違いな、愛らしい鈴の音。

あとは、頬に跳ねた雫の感触だけが、残った。



next episode → 鈴の音が聞こえない Ⅳ


……イヴ……

アレグレット…(なんで)
さて、鈴の音の正体とは。「休める場所」で起こる事件とは。
彼らのおとぎ話は、まだまだ……つづ、きます…(疲れんな)

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