『おはなし屋』-space-『およろず』

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
 英雄の伽《とぎ》 第四章 二日目 ───鈴の音が聞こえない Ⅰ 英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅲ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ   3kaku_s_L.png   スポンサー広告
*Edit
   

未分類

英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅱ

 
 英雄の伽《とぎ》 第四章 二日目 ───鈴の音が聞こえない Ⅰ 英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅲ
←  次のpageへ


しめった樹木の香りが満ちている。
朝つゆをふくんだ土はふっくらとしていて、素足に心地良い。
瑠璃(るり)色の森サラドールは、深い森独特の暗さはあるものの、
愛らしい青の花や蝶、小道を照らすスポットライトのような木漏れ日のためか、
不気味さはない。

下に擦るローブを跳ねさせながら、目を輝かせて歩くイヴと、
後ろからのんきについていくエイルは、どう見ても囚人と処刑人ではなかった。
吹き出しでセリフをつけるなら、こうだろうか。

「ワア、なんてすてきな森なんだろう~」
「こらこら、迷子になるんじゃないぞ。はっはっは」

実際はこうである。
小鳥のさえずる木漏れ日を仰いで、イヴは息を吸い込んだ。

「この拘束具さえなければなー。おおきーく、伸びがしたいよ」
「また今度な」
「え、今度なんてある?!」
「ない」
「……」

じりっと視線で焼いたイヴはふと、エイルを透かした奥を見つめる。
倣(なら)って後ろの小道に一瞥だけよこしたエイルは、
黙って脇の樹木に背を預けた。

もう見えなくなった森の入り口へ続く道を、
イヴは瞬きもせず、目に焼き付けている。
やがてイヴは、前に向き直った。

「休憩終わり」

エイルは組んでいた腕をとき、日の当たる小道に戻る。
先の長い、藍と水色の小道に立ち尽くしていたイヴは、
背後の靴音が追いつく前に、足早に歩き出した。

揚々とした足取りではなく、凜と。
まるで後ろなど、存在しないかのように。




   第4章  鈴の音が聞こえない


sarado-ru33_20091123044958.jpg




焼きごてでも押しつけられたかのような絶叫が、小道の脇からあがる。
森が深まるにつれ、得体の知れない気配がそばで動くようになった。
すっかり高くなった樹木の空から目をおろし、イヴは、途切れた足音の方を振り返った。

森の蒼のせいだろうか。
すこし蒼白い顔をしたエイルが、剣の柄に手をかけてあたりを見回している。

「どうしたの」
「……いや。 何でもない」

イヴを追い抜いたその横顔は、やはり蒼白い。
剣の柄に置かれたままの手をちらと見ながら、
イヴは小走りに、彼の後ろについた。

「ヴァルシスの中で、この森だけ色が違うんだな」
「100年前までは、
 魔女とか化け物がいそうな、もっとドロドロした森だったらしいよ。
 ミストルテインが摂れるようになって森の色が変わったって」
「へえ」
「アリオンにも変わった森、あるだろ? 木が赤色の、レッドベルの森」
「……よく知ってるな。あんな辺境の名前を」
「生まれは、そっちだからね」

さりげなく距離を離せば、簡単にはぐれてしまえそうだった。
どこへ行ったところで結局は引き戻されるのだが。

流れる足元の落ち葉を見送っていたイヴは、
不意に立ちはだかった背につんのめった。

「わッ……と。 何?」

咄嗟に、脇へと身を翻(ひるがえ)すイヴ。
エイルは道の外れを探るように睨んでいる。
いっそう力をこめて握られた剣の柄が、かちりと鳴った。

「何か」
「え?」
「何か、聞こえないか?」

木々のささめく音がする。
ホワイトノイズのような音が騒ぐだけで、いっこうに風もない、森深く。
揺れる木の葉ひとつにまで気を立てながら、エイルはゆっくりと振り返る。
イヴはしれっと首をかしげた。

「聞こえないよ?」

ふわりとローブを風に遊ばせ、イヴは道に舞い戻る。
まだ怪訝そうな目を貼りつけてくるエイルに、
イヴは悪戯をしかけた子供のように、にやっと笑ってみせる。


「───鈴みたいな、音なんて」


エイルは呆れたように、大きく溜息をついた。
ぴょこぴょこと、楽しげに小道を跳ねていく黒色テルテルを睨み、

「……まったく。 どこが英雄だ」

制帽のつばに手をかけ、すこしだけ目深に引き下げる。
道の先で、落とし穴にはまるさまをわくわくと待つような、
邪気はないがタチの悪い笑顔でイヴが待っている。

エイルはぶっきらぼうに、イヴの背を道の先へと押しやった。

「何を企んでる」
「え、俺? 企んでないよ、見たまえこのいたいけな目を」
「いたいけ? フーン」

チリン…

三度、耳朶をかすめたその音に、エイルは視線だけをよこす。
うっそうと茂る木の上、木の下、道の奥。
一瞬でかけ巡った森の中に、鈴の主は見えなかった。
先を歩くイヴが、エイルを振り仰ぐ。
意外にも、黙っていれば純真そうな紫紺の目を見下ろした後、


エイルはもう一度その小さな肩を、森の先へと押しやるのだった。



next episode → 鈴の音が聞こえない Ⅲ


「これ話暗くないか!? まずい!ちょっとかわいい話にしよう!」
なんていまさら路線変更を試みるも
やっぱり火和良は火和良なのであった。

彼らのおとぎ話はまだまだ、続きます
ねこ 


←


もくじ   3kaku_s_L.png   未分類
   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
  • 【英雄の伽《とぎ》 第四章 二日目 ───鈴の音が聞こえない Ⅰ】へ
  • 【英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅲ】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。