『おはなし屋』-space-『およろず』

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
 英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅴ 英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅱ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



もくじ   3kaku_s_L.png   スポンサー広告
*Edit
   

未分類

英雄の伽《とぎ》 第四章 二日目 ───鈴の音が聞こえない Ⅰ

 
 英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅴ 英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅱ
←  次のpageへ



体感温度が、変わらない。
イヴは、暖を求めるように腹にひきよせていた腿(もも)を、檻の外へずずず…と伸ばした。

いっこうに冷たいままの鉄格子から背を起こし、
イヴは2時間ぶりに、紫紺の目を開ける。

穴あきの壁の向こうは、透明な薄桃と藍に染まっている。

廃墟同然の広間に数名いる、防寒着を着こんだ兵士たちは、
顔こそキリッとしているものの、肩を強張らせ、白い息を吹き出している。

細い肩はむきだし。上半身は拘束布一枚、下は薄手のズボンのみにも関わらず、
イヴはしんしんと刺す冷えに震えることも、
白い息を吐きながら奥歯を鳴らすこともなく平然としていた。

「……かわいそーに」

そっけなくイヴが呟くと、一人の大柄な兵士が、鋭い眼光を差し向けた。
気怠げにその兵士を眺めると、イヴは面倒そうに首をかしげた。

「なに?」

兵士は、こぼれそうなほど目を剥きだした。
猛烈な剣幕で檻に詰め寄り、怒気をおさえるように、言葉を絞り出す。

「……黙っていろ。轡(くつわ)を噛ませるぞ……」
「口があいてる方が、あんたらにとって好都合なんだろ。
 俺がいろいろ小細工して仲間を呼んだ方が、捜すテマも省ける」

殺気を滲ませ、拳を握りしめている巨人に見下されても、
イヴは空の様子でも眺めるように、落ち着き払っている。
ふと静かに睨み返し、イヴはドスのきいた声で言った。

「憎まれ口のひとつやふたつ、我慢しろよ」

男はついに、拳を檻の天井に叩きつけた。
鈍い、鉄の唸り声が響く。
ゆっくりとかがみ込む巨体。鉄格子の向こうで、血走った目がぎらついている。

「早死にしたいのか」
「……あんたには、俺を殺す方法すら無いんだろ?」

口元を吊りあげて、笑うイヴ。
一瞬、顔をこわばらせた男に、
イヴは膝をたて、不敵に微笑む顔を近づけて囁いた。

「ためしに、その剣で突き刺してみたらどうだ……?」

男は気圧されるように、かがんでいた身を引いた。
苛立ったように顔を背け、横目で睨みながら吐き捨てる。

「……化け物が」
「御宅の大尉ほどじゃ、ないよ」

どこか疲れたように、檻にもたれかかるイヴ。
男は鼻で笑って、独白した。

「あんなもの。陛下のただの玩具だ」

ギギギギ……と錆びた音を引き摺って、広間の扉が開いた。
夜明けの空を背に、扉の奥から歩み行ってくる利発そうな青年。
伏し目がちな琥珀色の目。
頬や襟足までかかった、少々長めの栗色の髪。
吐く息こそ白いが、
相も変わらず緑の軍服を纏うのみのエイル・ウェリテリセ大尉は、
檻の前にたつ大柄な兵士を一瞥すると、眉をひそめた。

「……クルグス曹長。必要以上に近づかないで頂きたい」
「呼ばれたもんでね。どうやら、お寒いらしく」

大げさに腕をひろげ、男───クルグスは、エイルに向かって制帽をとった。
うやうやしく腰は曲げるものの、薄ら笑いは正面を向いている。

「どうも。失礼いたしました……?」

帽子のホコリをかるく払い、短く刈り込まれた頭に乗せると、
クルグスは朝日が昇りかける外へと歩いていった。
エイルは制帽のつばに指をかけ、わずかに目深に、帽子を引き下ろす。
のぞく口元が、軽く引き締められた。
手をおろし、イヴを見たエイルは、いつもの冷静な顔に戻っている。

「寒いのか」
「分かってて聞くんだね」

イヴは少々、呆れたように苦笑した。
エイルは意外そうに眉をあげる。

「俺の体は、まだペンデュラムラインに浸かってるんでしょ?
 要するに、ラインからちょこっと、オモテに顔を出してるだけ。
 見えなくしてるみたいだけど、たぶん鎖もちゃんとつながってる。
 俺が逃げようとしたらウラに引き摺り落として、
 今度オモテに顔を出した時には、ふりだしに戻ってる。
 ふりだしは、あんたが持ってるミストルテインの場所だ。
 
 からだがウラにいるんだから、オモテの温度なんて分かるはず無いよ。

 拘束布を『落とした』ふりをしたのも、ラインから完全に出たって思い込ませるためだろ。
 この檻も、本当は有っても無くても良い……ただの飾りだ。
 いい詐欺師になれるよ。大尉さん」

エイルはくそ真面目に頷いた。

「そうだな。あまり私を信用しないことだ」
「あっはっは、いつになったら通じるかなあ。俺の処刑に間に合えばいいけど」
「アリオンの首都に着くまで、この方法で護送する。
 噂を流すより、お前そのものを人目にさらした方が手っ取り早い」

エイルは膝をつき、ポケットから小さな鍵束をとりだす。
檻の鍵が外れる。
キイ、とちいさく蝶番(ちょうつがい)を鳴らし、扉が軽々と開いた。
イヴは笑っていた口を引き結ぶ。
どこか冷めた目で、縦線のない世界───
広間の扉の向こう、一ヶ月ぶりの朝焼けを眺める。
エイルは、檻の横に置いてあった子供用の黒ローブを腕にかけ、

「出ろ。出発する」
「どういうルート? それくらいは、教えてもらえるんだろ」
「お前達にとって、馴染みの道すじだ」

イヴは檻にもたれたまま、朝日のなか、こちらを振り返っているエイルを睨んだ。
冷徹な目で見下す軍人と、今にも殺しにかかりそうな殺気を向ける囚人。
周りの、白い息を吐き出し続ける兵士たちは、いっそう騒がしく奥歯を鳴らした。
エイルはイヴを見返したまま、口だけを動かす。

「100年前ここで処刑された売国奴シャイエの首が、
 アリオンへ輸送されたとおりの道で行く」
「……なるほど? じゃあ今日は、森林浴か」
「そうだ。 今日はサラドールの森を抜ける」
「抜ける、ね」

イヴはどこか楽しそうに、檻から身をくぐらせ、立ち上がった。
ぺた、ぺたりと木の床を踏みしめ、エイルのもとに歩み寄るイヴ。
兵士達が僅かに緊張し、ある者は思わず、剣の柄に手をかけた。

エイルはただ淡泊に、華奢な少年を見下ろしている。

イヴの、拘束布にまきとられたままの上半身をふわりと、
黒いローブで包むエイル。
弟にでも世話を焼くように、ローブの首元の紐を結ぶ。
イヴはエイルの手元を見つめながら、囁いた。

「寒くないって、知ってるくせに」

エイルは、応えない。
きゅっと蝶々を結び終えると、背を向けて歩き出す。
イヴは視線を落とし、去りゆく足元の影に言うように、つぶやいた。

「サラドールの森は、やめた方がいいんじゃない」
「……何故だ」

イヴは歩き出す。
近づく扉。兵士達の鞘鳴りが頻繁に聞こえ出すものの、
扉が閉まる気配はない。
出口で足を止めていたエイルの横に、
イヴはとうとう、並び立った。

山あいの端から、日が昇っている。
ほぼ廃墟と化した故郷に、暖かい日が射し込んでいる。
目をほそめ、淡い風に髪を梳かれながら、イヴは息を吸い込み───
すっとエイルを見上げた少年の目には、力強い意志が灯っていた。

「狩られるのは、どっちだろうな」

エイルを残し、階段を下りていくイヴ。
兵士が剣や銃を向けるなか、平然と歩いていく小さな背を見つめ、
エイルは剣の柄に一瞬、手を置いた。

自分の命綱を確かめるように。

やがて歩き出すエイル。
歩いていく二人を見る兵士の目は、いずれも畏怖や戦慄に染まっている。

ふたたび横に並んだ時、エイルは僅かに身をかがめ、
イヴの耳元で囁いた。


「───弱い方に決まってる」


イヴは、エイルを振り仰ごうとはしなかった。

ただ凜とまっすぐに


前だけを見つめて、歩き続けた。



next episode  → 鈴の音が聞こえない Ⅱ


え、やだなにエイルこわい…
さて、サラドールの森で何が起こるのか。
イヴの警告の理由とは…?
おとぎ話はまだまだ続きます。


←



もくじ   3kaku_s_L.png   未分類
   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
  • 【英雄の伽《とぎ》       メルヘン Ⅴ】へ
  • 【英雄の伽《とぎ》       鈴の音が聞こえない Ⅱ】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。